by 遠山 峰輝
by 遠山 峰輝
by 遠山 峰輝
UPDATE
2021.12.19
「組織は戦略に従う」という経営理論がある。戦略とは目指す姿を達成するための「方策」であり、組織はその「原動力」である。従って、戦略が異なれば組織も異なる、或いは戦略を変えたら組織もそれに合わせて変えなければいけないということである。これは、例えば、新しい事業を立ち上げようとすれば、〇〇事業部のような組織を新しく作るようなものであると考えるとわかりやすいかもしれない。昨今のトレンドでいれば、SDGs推進部、DX推進部などもこれに相当するだろう。
さて、病院の組織はどうか?少子高齢化、急性期医療から慢性期医療への変化、遠隔医療や在宅医療ニーズの増大など世の中が大きく変わり、それに合わせて病院も病床転換なども含めて戦略的な変化を進めているにも関わらず。その組織はどの病院も同じようなものであり、しかもここ数十年変わっていないのではないか。診療部、診療部には、内科、外科、脳外科、耳鼻科・・・・診療科がずらりと並ぶ。そして、どの病院にもいつの時代にも看護部、薬剤部、医療技術系部門、事務部。読者の中には、これは「組織というよりも職種/専門性の軸であり、企業の組織とは異なる」という意見もあるかもしれない。ま、そうかもしれないが、もしそれが正しいならば、病院には組織は存在しないということか?
少し余談であったが、この組織が変わっていないという点を事例で考えてみよう。多くの中小病院は急性期の専門性で勝負することが難しくなり、高齢者対応の病床を拡充してきた。地域包括ケア病床、療養病床、近年では介護医療院なるものも増えてきている。これらの病床において重要なことは、従来の急性期医療においてそうであった診療科別の専門性ではなく、高齢者に対する総合的な医療であり、ケアである。また入院患者の集客ルートにおいても、診療科別の自院の外来診療が入口になるのではなく、介護施設や、他の高度な急性期病院、在宅医などが中心となる。これは、病院の戦略、或いはビジネスモデルが大きく変わり、診療科という切り口が時代遅れとなっていると見ることができる。にも拘わらず、病院組織は相変わらず何の疑問も持たずに診療科という軸が温存され、力を持ち続けている。これでは、経営的にも、患者サービスという点からも高齢者に対して十分な医療が提供されるとは考えにくい。高齢者医療を担う病院で重要な組織の単位は、もはや専門性を追求する「診療科」ではなく、地域包括ケアや療養的な医療を「サービス単位」として捉える組織なのではないか。もちろんこれらに対応すべく、総合診療科なるものを装備する病院も増えているが、話は、そう小さいことではなく、病院全体の戦略に対応する組織の話である。そう考えれば、高齢者医療事業部長なるものがいてもなんら不思議ではない。極端な話なのかもしれないが、世の中や提供している医療が大きく変わりつつある中、何十年も変わっていない病院組織というものをゼロから見つめ直してみてはどうなのだろうか。
遠山峰輝