by 遠山 峰輝
by 遠山 峰輝
by 遠山 峰輝
UPDATE
2023.08.06
「職場存続 切り札は シニア」、本日の日経新聞朝刊の一面見出しだ。労働市場におけるシニア人材の重要性が高まっている。もはや70歳以上でも働ける企業は2022年に4割にも迫り、2012年の二倍超えになっているという。また、建設や小売りでは全雇用者の1割超が65歳以上であるという。人生100年時代を迎えている中、人出不足も相まっていることを考えればびっくりする数字ではないであろう。一方で60歳以上の労災はこの5年で3割近く増加したという。労災は一例に過ぎないが、シニア人材への労働需要が急速に高まる中でそれを支える社会の仕組みや企業の制度が追い付いていないということなのであろう。企業にとって、そして働くシニアな人材にとっても、単に働く年数や時間の延長だけではなく、その中身も含めた働き方改革が求められているということだろう。
ところで、政府が掲げる「働き方改革」とは何か?それは、そもそも安倍晋三元首相が推進した「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みの1つであり、「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」の3つの狙いがあるという。トラック運転手の長時間労働問題など「長時間労働の是正」だけではなく、今回紹介した記事でみられるように「多様で柔軟な働き方の実現」も大事な政策の一つであることは言うまでもないであろう。
さて医療界に目を転じてみる。話をわかりやすくするために、医師に着目してみると、その論点の多くは、年960時間労働をどうするか、残業削減、タスクシフト、宿日直許可、労働時間削減に向けたDXの推進など、労働時間の短縮に関するものがほとんどである。極端な話し、「医師の働き方改革=長時間労働の是正」となっているように思える。もちろん、医師の連続勤務、過労死問題、大学病院などにおける若手研修医の無償労働問題など、労働時間の問題が重要であることは言うまでもない。しかしながら、少子高齢化、地方における過疎化などにより医師不足が問題とされる中、若手や中堅医師を想定した「長時間労働の是正」に負けず劣らず重要な議論は、冒頭にご紹介した一般産業界での議論同様、シニアドクター(人材)をいかに活用するかということではないだろうか。詳しく調べたわけではないが、医師は、その職業の性質上、一般業界と比べて高齢になっても働く比率は高いであろうことは容易に想像できる。しかし、だからといって医師が、定年後、70歳、80歳になって働くことを前提に積極的に職場環境を整備してきたわけではないはずだ。実際に地方の病院では、高齢であるにも関わらず、常勤医ということで、救急当番や当直をやらされ頭を抱えている医師も少なくないのが実態である(あくまでも事例ではあるが)。つまり、国民や医師の高齢化に、各種制度やルールが追い付いていないということである。これは冒頭に記事で示した社会の問題と同じであると捉えることができる。
医師も高齢者になれば大きな変化があるはずだ。眼は見えにくくなり、手術はおろかパソコンに向かうのも辛くなるかもしれない。しかし、経験と円熟性では高齢患者との対話には優れているかもしれない。オンライン診療ならば家にいてもゆるりと仕事ができるかもしれない。忙しかった勤務医時代にできなかった研究分野に転じてみたいと思う医師もいるかもしれない。離島で医師をしながらゆっくりと余生をおくりたい医師もいるかもしれない。そのためには、世の中で着目されているリスキルリング(学び直し)が必要かもしれない。シニアドクターに着目した「多様で柔軟な働き方の実現」を狙った「働き方改革」が求められているのではなかろうか。
遠山峰輝