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病院を悩ます「クチコミ」をどうにかしたい・・・

UPDATE

2024.10.10

患者調査によると、病院を選択する方法として、クチコミを参考にする人の割合が増えてきました。しかし、クチコミの利用には多くの課題が伴い、患者や医療者にとって評価の難しさが浮き彫りになっています。

 

近年、多くの患者がインターネットを通じて医療機関を検索し、グーグルや医療関連サイトでのクチコミを参考にしているようです。

例えば、ある患者が特定の医院での治療を受けた際に、医師の説明が不十分だと感じた場合、その経験をクチコミとして投稿します。この場合、その評価は主観的なものであり、他の患者にとっては参考になるものの、実際の医療の質を正確に反映しているとは限りません。

また、クチコミは匿名で投稿されるため、信頼性に疑問が生じることもあります。ある医療機関に対して、患者が感情的な理由から厳しい評価を行った場合、そのレビューが他の患者に影響を与え、実際の医療の質を低く見せることもあるでしょう。

このような事例では、個々の評価が医療機関全体のイメージを不当に損なう可能性があります。

さらに、クチコミは特定の患者群による評価が多く、無関心な患者の意見が反映されにくいという問題があります。医療機関が優れた医療を提供している場合でも、無関心な患者はその質を評価することがないため、クチコミだけでは実際のサービス全体を正確に測ることはできません。これらの課題から、クチコミを医療機関の選択の唯一の指標とすることは不十分といえるでしょう。

 

一方その仕組みに目をつけて、「グーグルのクチコミの点数を上げます」というビジネスも出てきております。このようにしてビジネスが作られていくことを、なんだか本末転倒な気がして、複雑な思いで見ております。

 

そもそも医療の質の評価の歴史を振り返ると、初期の試みは古代ギリシャのヒポクラテスの時代にさかのぼります。この時期、医師は患者の健康状態や治療結果を記録し、自己の医療行為を反省していました。しかし、体系的な評価基準や客観的な指標は存在しませんでした。

19世紀に入ると、エピデミオロジーの発展とともに、医療行為の効果や副作用をデータとして収集する手法が確立されました。フローレンス・ナイチンゲールは、病院の衛生状態が患者の回復に与える影響を示し、統計データを用いた医療の質評価の重要性を訴えました。このように、医療の質は徐々に客観的な指標に基づく評価へと進化していきました。

 

アメリカの医学博士ドナベリアン(Donabedian)は、医療の質を「構造」「プロセス」「結果」の三つの次元に分類しました。構造は医療提供の基盤を、プロセスは医療行為の過程を、結果は患者の健康状態や満足度を評価します。この枠組みは、医療機関や政策立案者が質の向上に取り組むための基盤となり、医療の質を包括的に評価する手法として広く用いられています。

しかし、その評価は、医療を選択する患者までは十分に伝わるものではありませんでした。

 

ここにきて、時代の流れの中で出現した「クチコミビジネス」は、今、私達に「医療の質とは何か」を問いかけているように思います。

医療の質評価の歴史を踏まえ、今後は客観的な指標や患者満足度調査、情報の透明性確保といった具体的な方策を考え、医療の質を向上させていかなければならないでしょう。

 

田中智恵子